2009年度センター試験(英語)を振り返って

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センター試験で出題された「語い(=単語・熟語・決まり文句)」「語法(=単語の使い方)」「文法(=文の決まり)」の設問を振り返ってみます。

ここで取り上げているのは受験者の正解率が低かった問題です。


また,ALL IN ONEを「語い」「語法」「文法」の参考書として使った場合,今回のセンター試験でどのように役に立ったのかを見てみます。

まずは「語い」の知識を問う出題です。

多くの受験生は次の問題(第2問A 10)に頭を悩ませたと思います。

“You never seem to gain weight! How do you stay slim?”

“Just lucky, I guess. It (   ) in the family.”

 (1) comes   (2) goes   (3) runs   (4) works

正解は(3)runsです。この英文の空所に正解を入れると次の意味になります:

「あなたって全然体重が増えないみたいね。どうやってスリムな体型を保っているの?」「ラッキーなだけよ。うちの家系はみんな痩せているの

下線部に当たる「… runs in the [my, his, etc.] family. 」は「…が家族の中に血として流れている」→「…なのは家系的な遺伝である」という決まり文句です。直訳すると「それ(=痩せていること)は家系的な遺伝である」で,それを意訳したのが上記の下線部です。

この「… runs in the [my, his, etc.] family. 」はとてもよく用いられる表現ですが,主な大学入試用の参考書(=単語・熟語集)にはどれも掲載されていません(今後改訂される際に掲載されるでしょう)。

ALL IN ONEでは「例文108」(下記)にこの表現が含まれています(単語欄でも別途解説されています):


   Longevity runs in my family.(うちは長寿の家系です)


次(第2問C問2)も「語い」に関する問題です。これは並べ替えの問題です。bookという単語に「…を予約する」(reserve)という動詞としての使い方があることを知っていた受験生はかなり少なかったでしょう。というのは,これもよく使われている大学入試用単語参考書には載っていません:

The Wddowsons are planning to eat out with their son at a restaurant. Mr. Widdowson calls the restaurant to make a reservation. He could say:

Can ______   ______   ______   ______   ______   ______ for 7:00 next Saturday?

 (1) a     (2) book     (3) for     (4) I     (5) table     (6) three

並べ替えた解答は,I book a table for threeです。全体の意味は次のようになります:

ウィドウソンさん夫妻は息子とレストランで外食をする予定です。夫のウィドウソンさんはレストランに予約の電話をかけます。そこで彼は次のように言うかもしれません:今度の土曜日7時に3人の席を予約できますか?

Can I book(…を予約できますか?)までがわかれば,その後にa table for threeを考え出すのは難しくありません。センター試験では中学1年生で出てくるような基本的な単語の(重要だけれども)学習者に意外と知られていない意味が出題されます。ALL IN ONEでは例文93(下記)に動詞のbook(予約する)が出てきます:


  The chances are the restaurant is fully booked by now.
  (おそらく,レストランは今頃予約で満席だろうな)



次の問題(第2問B問3)も語いの知識を問うものです。I couldn’t agree more.(全く同感です)という表現を知っていた受験生は少ないでしょうから,やはり正解者は少なかったでしょう。

Harry:  Would you mind taking a look at this?

Nick:  This is a great plan, Harry! (      )


Harry:  Yeah, but there’s one thing I’m concerned about. Our boss might not like the extra costs.

Nick:  Well, he may not be happy with the extra costs, but this plan has so many advantages. I’m certain he’ll say yes.


(1) I can’t agree with that. There are too many disadvantages.

(2) I couldn’t agree more. I’m sure it’ll work.

(3) That depends. I have no idea what to do.

(4) Your idea doesn’t make sense to me.

答えは(2)です。解答の選択肢も含めて和訳してみましょう:

Harry: ちょっとこれをみてくれる?

Nick: これはすごくいいプランだよ,ハリー。全くもって賛成だ。

Harry: そうだろう。でも,一つ心配なことがあるんだ。ひょっとしたら上司は余分にコストがかかるのを嫌うかもしれない。

Nick: あぁ,確かに余計なコストがかかるのは歓迎しないかもしれないが,このプランは優れた点もたくさんある。きっと上司も賛成すると思うよ。

I couldn’t agree more.は大半の大学受験用の単語集や熟語集には載っていない表現です。文法書がかろうじて扱っているかもしれません。ALL IN ONEは例文295がズバリこの表現を含んでいます:

   “So it does. I couldn’t agree more.”
   (確かにそうですね。全く同感です)

このI couldn’t agree more.が出題されるということは,I couldn’t care less.(全く気にしない)やIt couldn’t be better.(それは最高に良い)といった同様の表現も今後出題される可能性があるということです。このタイプの表現の文法的な理解はALL IN ONEの解説に書いてあります。


今回のセンター試験では今までには問われなかった,かなり会話的な表現も出題されました。それが次の設問(第2問B 問2)です。

Customer:  Could we have three tofu burgers, please?

Server:  I’m sorry, we’ve sold out today.

Customer:  That’s too bad! Your tofu burgers are so delicious that I brought my friends with me so they could try some.

Server:  (    ) Why not try the lotus root burgers, instead? If you don’t like them, you don’t have to pay.


  (1) Did I owe you one?    (2) For here or to go.    

  (3) I’ll put you through.    (4) I’ll tell you what.

答えは(4)I’ll tell you what.(ねぇ,いい考えがあるんだけど)です。全体を和訳してみます:

客: 豆腐バーガーを3ついただけますか?

給仕係: すみません,今日は売り切れてしまったんです。


客: それは残念だな。ここの豆腐バーガーはすごくおいしいから,友達にも食べさそうと思って連れてきたんですよ。

給仕係: いい考えがあります。レンコン・バーガーを召し上がってはいかがでしょうか? お気に召さなければ代金はいただきませんので。

このI’ll tell you what.という口語表現もおそらくどの大学受験用の参考書にも載っていないでしょう。ALL IN ONEは会話表現が多く含まれていますが,この表現は残念ながらカバーできていませんでした。今後もこのような会話表現は1問か2問は出題されると思います。


次(第2問C問3)は「文法」の問題です。これは「if節での省略と倒置」に関する知識を問う問題です。

There was a phone call from someone whose number you didn’t recognize, so you didn’t answer it. However, it was from someone inviting you to a party. You could express your regret by saying:

 I ______   ______   ______   ______   ______   ______ answered the phone yesterday.


 (1) could     (2) had     (3) have     (4) I     (5) joined   
  
(6) the party

解答は,I could have joined the party had I です。

had I answered …if I had answered …の倒置形になっています。

if+主語+had+過去分詞」という仮定法過去は,「had+主語+過去分詞」というifを省略した倒置形にすることがあります。どんな受験参考書(文法参考書)にもこのことは載っています。ALL IN ONEでも例文374がこの倒置形をテーマにしていて,その文法解説に出てきます。但し,受験生の大半はこの「had+主語+過去分詞」が文頭(=主節の前)に出てくると思い込んでいるので,この設問のように文中(=主節の後)に出てくるとぴんとこない恐れがあります。ですから,できなかった人が多かったでしょう。


文法問題でもう一つ難しかったのは次の設問(第2問 A 問5)です。これはとても良い問題だと思います。センター試験作成者の英語力の高さ,見識の深さを垣間見ることができます。

You’ve got (   ) on your tie. Did you have fried eggs for breakfast?

 (1) a few eggs  (2) an egg  (3) some egg   (4) some eggs

   和訳: ネクタイに卵がついてるよ。朝食に卵焼きを食べたんじゃない?

eggは可算名詞」と暗記していた人は,「eggは可算名詞だから単数形ならan eggになり,複数形ならeggsになる」と考えるので,(3)some eggが答えとは夢にも思わないはずです。しかし,ここで「ネクタイ」についていた「卵」は「卵1個(an egg)」や「複数の卵(eggs)」ではなく,「卵の液体」です。

割られる前の「卵」には形があるので1つ2つと数えることができます。だから可算名詞です。しかし,ネクタイについた「卵の液体」には明確な形がありません。ですから数えることができず,不可算名詞です。これは,chickenが「1羽の鶏」の意味では可算名詞で,「鶏肉」の意味では不可算名詞なのと同じです。

この設問は難問・奇問のたぐいではなく,英語の基本的なことです。ただ,従来の日本の英語教育が苦手な領域ではあります。ALL IN ONEにはこの点に触れた記述はありませんが,Re-StartではLesson 19NOTEに「可算名詞と不可算名詞」の基本的な考え方が説明してあります。



さて,ALL IN ONEで学習をしてくれた受験生,学習の成果はいかがでしたか?


ALL IN ONEをしっかり読み込んでいた人,例文がすらすら読めるように頑張った人,例文のナチュラルスピード音声を繰り返し聞いて発音に慣れていた人は,筆記・リスニング共にかなりよく出来た(同じ時間を使って他の文法,単語,熟語,リスニングを勉強した人より良い点数が取れた)のではないかと思います。

高校生,大学受験生,父兄の方から,「ALL IN ONEは大学受験予備校の参考書でもなく大学受験専門の参考書でもないので,大学受験に出る単語や熟語,文法が学べるのですか?」というお問い合わせをいただくことがあります。そのことに関する回答を少し書いておこうと思います。

今回(2009年度)のセンター試験の出題(ここで取り上げた「第2問 A 10」「第2問 B 問2」「第2問 B問3」など)を見てもわかるように,大学受験専門の参考書には載っていないことがいくつもALL IN ONEの例文とその解説に載っていました。

「大学受験専門の参考書」が共通して載せているような項目(例:第2問C問3などでALL IN ONEにも含まれています)では受験生の点数に差がつきません。差がつくのは「大学受験専門の参考書」が載せていない単語や表現・文法です。この部分は「ALL IN ONEで学習していた受験生」が有利です。「第2問A 10」「第2問B問3」はその典型的な例です。

センター試験および最難関の国公立や私立の大学で出題される英語の知識は,「一般的な英語の基礎知識」であって,いわゆる「受験英語」という狭い枠組みの知識ではありません。

ですから,冒頭の質問に対する回答は,

「現代英語」の重要単語・表現・語法・文法を広く扱ったALL IN ONEを学習した方が,受験英語という狭い枠組みだけを扱った参考書よりも「ライバルに差がつく学力」が身につけられる

ということになります。




それから,今後のセンター試験の傾向ですが,文部科学省が「英語を英語で」という教育方針を打ち出していますので,センター試験はそれを先取りした形で,「英語を英語で説明する」「英語を英語で理解する」という形式の出題が主流になるでしょう。昨年から導入されたセンター試験の「第3問」がこのことをよく物語っています。今年の第3問の1番目の設問は次のようなものでした:

Elsie:  Hi, Chiara. How’s your speech for tomorrow’s class coming along?

Chiara:  Actually, I’m in a bit of a panic. The topic I chose to talk about is a real can of worms.

Elsie:  Really?

Chiara:  Yes, it’s incredibly complicated. There are so many issues involved. I just can’t see how to cover everything in a three-minute speech.

In this dialogue, a real can of worms means something that (   ).


  (1) contains many secrets

  (2) has a lot of problems

  (3) is not interesting

  (4) takes little time

ここではa can of wormsの意味が問題になっています。a can of wormsは英検1級で出題されるような比喩表現です。センター試験で問われているのはこの表現を知っていたか否かではなく,この表現が英語で説明された時に理解できるか?ということです。

このような「英語を英語で説明・理解する」設問に対する最適な準備学習は「英英辞典」を引くことです。平素から英英辞典を引いて英語での説明に慣れることです。これはリスニング問題の練習にもなります。


ただ,いきなり英英辞典を買って引き始めても多くの受験生はうまく使いこなせず,ストレスがたまることでしょう。そこで,英英辞典への移行をスムースにするための「英英辞典準備参考書」があると便利です。英英辞典でよく用いられる2000語レベルの単語と説明の仕方に慣れるための参考書です。この目的で作られているのが我々の「english x english」です。この参考書を使えば英英辞典は引けるようになります。英英辞典が引けるようになったら,できるだけ英和辞典に頼らずに,英英辞典を引くようにしましょう(大学に入っても,専門的な用語を引く以外は英英辞典を中心にするとよいでしょう)。


ALL IN ONEの例文に出てくる単語をどんどん英英辞典で引いてみる,学校のリーダーのテキストに出てくる単語を英英辞典で引いてみる,そんな学習を入試までの1年間に行うことができれば理想的です。そうすれば,入試本番ではライバルに大きく差を付けることができるでしょう。

最後に,「センター試験 第6問」の英文を掲載しておきます。英文の内容は,翻訳者をしている叔母から「英英辞典」をプレゼントされた学生が,それをきっかけに英英辞典を引くようになり,英英辞典のメリットを発見するという内容です。訳文はネットで見つかりますので検索してみてください。

センター試験の第6問でこのような英文を掲載することが,今後のセンター試験と日本の英語教育の方向性を示唆しているとは思いませんか?

 When I first entered university, my aunt, who is a professional translator, gave me a new English dictionary. I was puzzled to see that it was a monolingual dictionary, which meant that everything was in English. Although it was a dictionary intended for learners, none of my classmates had one and, to be honest, I found it extremely difficult to use at first. I would look up words in the dictionary and still not fully understand the meanings. I was used to the familiar bilingual dictionaries, in which the entries are in English and their equivalents are given in Japanese. I really wondered why my aunt decided to make things so difficult for me. Now, after studying English at university for three years, I understand that monolingual dictionaries play a crucial role in learning a foreign language.

 When I started to learn English at the age of ten, I wanted to pick up as much basic vocabulary as possible and created what might be called a simple bilingual “dictionary” for myself. This consisted of English words and their equivalents in Japanese written on cards. I would put the English word on one side of a card and the Japanese equivalent on the other. I found this to be a convenient tool for memorizing basic everyday words.

 In high school I was assigned longer texts which had a larger vocabulary, so I started to use a standard English-Japanese bilingual dictionary. Such dictionaries contain a large number of commonly used English words. Each item comes with a pronunciation guide, its equivalents in Japanese, a note on its grammatical functions, and examples of how it is used.

 For those working as professional translators and interpreters, there are more specialized bilingual dictionaries. My aunt often translate articles submitted to international medical journals, so she uses a bilingual dictionary devoted to medicine. Such dictionaries, available in various fields, tend to omit words like “come” or “go” used in an everyday sense; on the other hand, they contain highly specialized terms not found in standard bilingual dictionaries. For example, in a bilingual medical dictionary, one can find a term like “basal body temperature,” which is unfamiliar to most people an expression referring to the temperature when the body is at rest.

 Then, if bilingual dictionaries are so useful, why did my aunt give me a monolingual dictionary? As I found out, there is, in fact, often no perfect equivalence between words in one language and those in another. My aunt even goes so far as to claim that a Japanese “equivalent” can never give you the real meaning of a word in English! Therefore she insisted that I read the  definition of a word in a monolingual dictionary when I wanted to obtain a better understanding of its meaning. Gradually, I have come to see what she meant.

 Using a monolingual dictionary for learners has benefited me in another important way my passive vocabulary (words I can understand) has increasingly become an active vocabulary (words I actually use). This dictionary uses a limited number of words, around 2,000, in its definitions. When I read these definitions, I am repeatedly exposed to basic words and how they are used to explain objects and concepts. Because of this, I can express myself more easily in English.

 Once I got used to the monolingual dictionary for learners, I discovered another kind of monolingual dictionary, which is particularly useful when writing essays or preparing presentations. This is what can be called a “find-the-right-word” dictionary. This kind of dictionary enables me to come up with an alternative, and sometimes more precise, expression for a word I am already familiar with. For example, if I look up “difficult,” I will find a group of related terms such as “challenging,” “tough,” “hard,” and “demanding.” A word like “important” will lead me to “significant,” “crucial,” “essential,” “influential,” and “major.”

 What I realize now is that both monolingual and bilingual dictionaries have particular uses, and your choice of dictionary depends on your aims. If you wish to understand the general meaning of texts in a foreign language and have no need to express your own ideas in the language, you may find a bilingual dictionary sufficient. If you work as a professional translator, you will find it necessary to use specialized bilingual dictionaries. However, if your ultimate goals are to understand a foreign language clearly and to speak or write the language using a variety of words, I strongly recommend that you obtain a monolingual dictionary once you have command of a basic vocabulary. I feel I owe the progress I have made in English to the wisdom of my aunt.

*この第6問の英文は english x englishのホームページで書かれていることと同じ主旨です。そちらも参考にしてみてください。

 http://www.english-by-english.com/concept/step1.html 

 http://www.english-by-english.com/book/concept.html